広島市東区の高台の住宅地。坂の上の角地にH様家族の家は建っています。天気の良い日は、遠くの春日野団地や三滝辺りまで望むことができ、眼下には広島市街が広がります。ここはかつてH様の祖父母が住んでいた土地で、H様にとって子どもの頃から馴染みのある場所。祖父が亡くなり祖母がH様の父母と暮らすことになったため、この土地を譲り受けました。
北東は坂道の道路に囲まれ、南西は隣家に接しているこの敷地は、当初、木造2階建ての古い家が建っていました。この団地は古く、地層が岩盤のため地下水位もなくしっかりとした地盤でした。しかし、広島県の崖条例に該当する擁壁の高さが2mを超えていたため、鋼製杭を1.0m~3.5mまで19本施工。団地内特有の道路と敷地の高低差を玄関エントランスで調整し解消しました。
南に隣家があるからといって、日当たりを諦めてしまうことはありません。敷地に少しでも差し込む太陽の光があれば、それを確実に部屋の中に取り入れる工夫をします。この家は南と西の二面に隣家が迫り、道路に接する北側と東側にもお向かいに家が建ち並んでいました。周囲から家の中が丸見えになっては困るので、どの方向にも大きな窓を開くことができません。
そこで南側の隣家の屋根越しと西側の家と家の隙間から見込める太陽の光を取り入れるため、1階・2階の南側に大きな窓を設け、木製の縦ルーバーでお隣からの視線を遮りました。ルーバーは光が十分に入るように角度が調整されています。さらに2階に取り込んだ光は、吹き抜け(格子床)を介して1階にも届き、ダイニングの床には格子状の光と影がふんわりと落ちるのです。
「やさしい光」がこの家のテーマ。周囲の家の高さや日照角度のデータを集めて窓の位置を決めたそうです。採光はこのルーバー越しの光と、各所に設けた横長のハイサイド窓が中心。強い直射日光よりも、たくさんの窓から少しずつ光を入れています。周囲の家からの視線が気にならないため、この家ではどの窓にもカーテンをつけていません。
生活感を感じさせないアーチ型の垂れ壁
ダイニングの奥の洗面室やバスルーム、トイレといったプライベートスペース。すぐそばの手前の壁には食器棚を置いたこともあり、ダイニングにいても隣の水回り空間を感じさせないように、かわいいアーチ型の垂れ壁で入り口をつくりました。こうすることで、水回り空間を扉で閉ざしてしまうことなく、壁の向こうの雑多な生活感をLDKにもちこまないことに成功しています。
日当たりに加えて、風通しもほしいものの1つ。風通しの良い家をつくるには、風の通り道を考えることが重要だと覚えておきましょう。風の吹いてくる方向に入り口の窓を設け、風が外へ抜ける出口の窓も忘れないようにします。さらに出口までスムーズに風が流れるように通り道も計画します。
この家は高台にあるため、南南西から風が吹き上がる形で入ってくるため、その風を通すための計算をした上で北東に外開きの窓を設けています。
日当たり・風通しに続いて、大事な窓の役割として「眺望」があります。日当たりや風通しのためだからといって、やみくもに窓を開けることはおすすめしません。わが家の南側はお隣の北側であることをお忘れなく。せっかく窓を設けても、お隣の室外機が置かれていたり、浴室やトイレの窓が並んでいることも少なくないからです。窓の計画では「外に何を見たいか」も大事なポイントなのです。