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2020年11月14日土曜日

「風と光」を考えて取り込む家~地域の暮らしを楽しむ住まいのアイデア~

瀬戸内海の真ん中、芸予諸島に浮かぶ大崎上島は、瀬戸内海独特の温暖少雨で過ごしやすい気候の島です。この地に住まいを構えるM様夫婦は、そろって島のご出身。元々住んでいたアパートが老朽化し、不具合が生じてきたため、ご主人の両親が所有されていた土地に現在の家を建てました。

家づくりにおいて、まずお2人が希望されたことは「風通しが良いことと、昼間は照明を付けなくても過ごせるくらい明るい家」。風と光を心地良く取り込む調整をし、四季を感じることができるプランニングを行いました。

家全体に風の通り道をつくる上で最も重要なのは窓の位置。LDKのある南側の窓から入り込んだ風が室内を通り北側に抜けるよう、子ども部屋スペース、寝室に窓を設け、西側には弱い風でも効率よく取り込むことができるように縦滑り出し窓を採用しました。また、生活の中心となるLDKが2階にあるM様邸では、立体通風を計画することも重要。1階からの風は階段を通り2階に、そして吹き抜けを通りロフトに抜けるようにして、より快適な住まいが実現。ロフトへの風の通り道をつくることで、夏のムワッとした温かな空気を逃がす役割も果たしてくれます。


床はパイン材、梁にはマツを採用。塗料はドイツ製の自然塗料を手塗りして丁寧に仕上げられた空間

吹き抜けを設けることでロフトに抜ける家全体の風の流れを確保。高気密高断熱なので冬の寒さの心配もない

子ども部屋の北側に設けた窓。LDKのある南側からの風を通す

風向きに合わせて縦滑り出し窓を採用。開けた窓ガラスがウインドキャッチャーの役割を果たし、外の風を室内に誘導して風の流れをつくり出してくれる

<風の流れを記したM 様邸の間取り図>

【ほんわかした光が差し込む技ありの採光を叶えた空間】

南側にバルコニーを設けて掃き出し窓からの採光を確保し、LDKを明るく温かい空間に。季節ごとに適切な日の光を取り込めるよう、また直射日光を避けるため、庇は長めに、角度も綿密に計算したものを設置

 

夏は風通しが良く快適で、冷房は特に暑い日かお客様がいらっしゃったときにしか使用しないというM様邸。冬の住み心地はというと……夏以上に快適さを感じているそう。

寒くなる11月頃から3月頃までのM様邸の暖房機器の使用サイクルは、基本はこたつで暖を取り、家族が学校や職場から帰ってきてLDKに集う18時頃から20時頃までの2時間だけストーブをたく。これだけで冬場の室温が1日平均13℃を下回ったことがないと言うから驚きです。温かい空気は上に昇っていくので、子どもたちの寝室としているロフトが自然と暖まります。「夜、子どもたちが寝静まって様子を見に行くと、真冬で暖房も使用していないのに、掛け布団をはいで寝ているんです(笑)」と奥様。

まず、基本的に断熱・気密性能が高いということ。そして、昼間に冬場の低い太陽の日差し(熱)をしっかりと取り込めるよう、庇の長さと角度を考慮した設計がなされていることで、温かく快適な空間が実現できるのです。太陽の日差しの取り込み方に関するポイントはもう1つあります。それは、熱としてではなく〝光〟としての取り込み方。南側のバルコニーに延びた長い庇が、直射日光の侵入を遮り、季節ごとに程良い場所で光を溜めて「ほんわかした心地良い光」を間接的に室内へ届けてくれます。明るい室内にしようと思って日の光を入れても、まぶしくてカーテンを閉めてしまってはもともこもありません。また、直射日光は目を疲れさせ、ストレスの原因にもなるので、防ぐべきです。

合わせて照明計画もしっかりと行いました。家全体を明るく照らすのではなく、「仕事・家事をする光」「安らぐ光」「主役・脇役の照明」など、暮らし方に合わせて適材適所に照明を配置。照明機器はほとんどを奥様が購入したお施主様支給でコーディネート。将来のことも考えて可変性を持たせた子ども部屋の照明にはダクトレールを採用し、照明の位置を部屋の間取りに合わせて簡単に変更できるようにとの配慮もなされています。


ロフトへは梯子ではなく奥様の希望で階段を設置。階段にしたことで、ロフトへの昇降が楽にできるので子どもたちの遊び場や寝室として利用するなど、日常での使い方の幅が広がった。この縦長の空間に階段を設置しても圧迫感がないのは、北側に設けた空間に窓が抜け感をもたらしてくれているため

階段下には収納を造作。収納したいものに合わせてつくられた、大小さまざまな箱の組み合わせは大工のなせる業

空間の脇役となる照明でもデザインは個性的なものを採用し、インテリアとしても楽しむ

【庇を生かして太陽の光とうまく付き合う家】
美容院も併設しているM様邸。外壁はモルタルに耐候性・耐久性に優れたソフトロールを塗装。光(熱)の反射も考えて明るい色を採用している

島内に建つM様邸。外観は海から吹く風による塩害を考慮した素材選びを行いました。特に屋根は、これから何十年と住み続けていく上で、なるべくメンテナンスによるランニングコストがかからないようにと、山陰・石州が産地の対候性が高い瓦を使用。高い焼成温度で仕上げられたこの地方の瓦は、塩害に強いのが特徴です。

「家づくりは本当に楽しかった」という奥様。その思いが特に現れているのが、作家活動もされている奥様のアトリエ(ミシン室)。玄関を入ってすぐの1階に設けられたその部屋でミシンに向かうと、目の前には可愛い小窓が。これは作業中でも外から帰ってきた子どもたちの顔を見て「お帰り」と言ってあげられるようにと、奥様のアイデアで設置したもの。建具の塗装も奥様のDIY。その他にも家の中のいたる所に、夫婦でDIYした家具があふれ、住まいを育みながら、暮らしを楽しんでいる様子が印象的でした。


<こだわりが詰まったアトリエは生活を豊かに>
作業スペースの上には主役となるインダストリアルな照明が雰囲気を醸す。床はヘリンボーンにするなど、空間へのこだわりが随所に。

 


木製の窓枠は奥様がイベントで見つけて購入したもの。それに合わせて大工が窓を施工した日々の何気ない動作を快適にする高さと配置

照明のスイッチは毎日触る場所。通常の住宅では床からの高さを1,100~1,200mmの位置に設置していますが、手を上げる動作を軽減する1,000mmの高さにしました。また、掃除機での家事の負担を少しでも減らせるようにと、コンセントの場所を空間ごとに確保し、その高さは通常床から200mmのところを400mmと少し高めに設置。下に屈む負担を軽減しています。